日常的に運動している人でも人生でまったく腰痛に悩まないという人はいません。

それはヒトが二足歩行という進化を選んだ時からの宿命であり、骨が進化していくにつれ、それを支える筋肉もまた大きく進化をしていきました。

今回はヒトの腰痛の原因となった骨格の進化についてお話していこうと思います。

 

二足歩行と腰痛の歴史

人類が手を地面からはなして歩行を始めたのはおよそ700万年~600万年前と言われています。

原初の二足歩行では前傾姿勢でしたが、脳が発達していくにつれ頭を支える為に直立した形で歩行可能な背骨の生成を目指していきました。

本来重力を感じるはずのなかった背骨は重力を分散するためにS字に湾曲し、その負担のすべてを二本の足で支えるという独自の進化をした人類は農耕を始めた頃から腰痛に悩まされることとなりました。

祖先はもとの背骨が前方に向いていたので前傾姿勢をとるのに苦労をする事はありませんでしたが、進化した人類は鍬をふるったり苗を植えるなどの作業を行う前屈姿勢を長時間保つことは出来なくなっていたのです。

現代では多くの人が農業から離れたものの、事務作業やパソコンの操作あるいは車の運転や荷物の運搬など長期長時間にわたる腰への負担は変わる事が無く、かと言って尻尾も遠い昔に退化して失ってしまった私たち人類は二本の足を頼りに自分の体重を支えていくしかありませんでした。

地球上で二足歩行を行う生物は他にカンガルー・ペンギンが挙げられますが、いずれも直立して移動をする事はなく、四足歩行の生き物は脊椎に体重がかからないので腰痛になる事はありません。唯一ダックスフンドと言う小型犬種は椎間板ヘルニアに気を付ける必要がありますが、彼らの胴長短足の体形はもともとは穴の中にいるネズミやアナグマなどを狩る目的で人工的に改良され、現代ではペットとして親しまれる為に小型化したことが原因とされています。

ヒトは進化の過程で社会を築き、労働をするようになったことで本来自然界にはなかった腰痛・肩こりという苦悩を抱えてしまいました。

しかしヒトの進化の歴史は知恵があったから二足歩行になったのではなく、二足歩行になり手を使う・道具を使う事が出来るようになったことから脳が発達し、文明を開くことが出来るようになった言われています。したがって、腰痛は文明開化の対価だったと言えるでしょう。

 

人類にあって他の動物にないもの

ヒトと四足歩行の生物との大きな違いは股関節の柔軟性にあります。

足を前後に動かす筋肉は他の動物も共通して持っていますが、立ったままバランスを保ったり歩くときに動きを安定させるためには股関節を外側へ動かす必要があり、その動きがヒトの直立二足歩行を可能にさせています。

走る動作に置いて素早さを出すには人の筋肉は特化しているとは言い難く、かけっこをしても四足歩行の生物に勝利することは難しいでしょう。

しかし持久戦となった場合、ヒトの歩行は最も長い時間を歩いている事ができ、歩行に掛かるエネルギー効率は四足歩行のおよそ四分の一程度と言われています。

それは四足歩行をするイヌやネコなどの多くの生き物たちは踵を地面につけず、ヒトで表すならつま先立ちのような形で歩行を行い地面を踏み出す形でより早い移動を可能にしています。

一方二足歩行をするヒトの場合は踵を地面にしっかりとつけ、全体重を足にのせることで安定させることができ、腰部筋肉から足先までを使い重力を上手に分散させて長時間の歩行を可能にしています。

他の動物たちの筋肉は前後の動き(屈曲・伸展)を行うのみですが、そこに開いたり閉じたり(外転・内転)捻る動作(内旋・外旋)を可能にしているのがヒトの筋肉の優れた所になります。

股関節でそれを可能にしているのは骨盤から臀部にある「中殿筋」とそれを支える太ももの筋肉の総称「ハムストリングス」です。この二つの筋肉の発達がヒトの直立二足歩行を可能にしており、この二つに柔軟性が損なわれると腰痛や肩こりなど全身に不調が現れてしまいます。なぜ足の不調が肩にまで影響を与えるのか疑問になるかもしれませんが、肩甲骨から骨盤までの動きが一連の動作として繋がっており、骨盤周辺の筋肉が凝ってしまうと肩甲骨周辺の筋肉も緊張状態になる事から肩こりになってしまいます。

 

腰痛を回避するために

骨格の構造上、腰痛から逃れるのは現代の生活の中では難しく、近年は若年層の腰痛も目立ってきています。それは骨が弱くなっているわけではなく、運動量の減少などからくる筋力の衰えが腰痛を悪化させる原因となっています。

骨を支える筋肉は一つ一つに当然役割があり、一つの動作を行うにしてもいくつかの筋肉が引っ張ったり縮んだりすることでそれを可能にしています。その中でも体の真ん中を通る脊椎周辺の筋肉はどんな動作を行うにしても基礎となり、支えとなる事から不調の予防の為の体幹トレーニングが勧められています。

腹筋や背筋だけではなく、捻る動作を加えたストレッチで筋力の回復と柔軟性を鍛え、全身のバランスを整えることで筋力だけでなく自律神経の不調も改善されると言われています。

脳が重たくなった人類には四足歩行になる進化はあり得ませんが、頭を支えるためにまっすぐに立つ進化をしたにも関わらず、生活の中で前かがみになる事が多いのは大きな矛盾です。この矛盾を解消するには自分の体を良く知る事から始めてみましょう。

姿勢や動作の癖を知り、ながら作業ではない筋トレ習慣が一番効率的なトレーニングに繋がります。

腰痛は直立二足歩行を可能にした人類の宿命ではありますが、腰痛になる仕組みを学び、辛い痛みを少しでも回避していきましょう。