呼吸と人体
この世に生を受けてから何年たとうが一度も絶やすことがない呼吸運動。
毎回意識をして呼吸を行っている人はあまりいないと思いますが、呼吸をしていなければ誰でもすぐにわかります。
空気を吸って吐き出すことでポンプの働きをし、心臓から全身をめぐる血液の循環を促していると言う事はみなさんご存じかと思いますが、呼吸がもたらしてくれるのは酸素だけではない事をご存じでしょうか?
呼吸法から学ぶ体の健康について考えていきたいと思います。
呼吸の仕組み
ヒトは肺呼吸のために発達した横隔膜と肋間筋という筋肉が伸縮することで肺へ空気を流し込み、また伸縮を繰り返すことで肺に溜めた空気を外へ吐き出して、一巡させています。
この一巡の中でおよそ500mlの空気を循環させ、通常の状態でだいたい毎分14~20回ほど呼吸を行います。
運動後や精神的緊張状態にある場合、一度に吸う呼吸量が増加したり呼吸が回数が増加する過呼吸・頻呼吸状態になり、逆に呼吸筋の低下や異常があると呼吸は浅くなったり回数が減少してしまう異常呼吸状態になります。
呼吸の空気に含まれる成分は吸う息~吐く息で窒素78%~78%酸素21%~16%二酸化炭素0.04%~5%となっていて、酸素を吸っていると認識している人が多いかと思いますが、大気中に多く含まれる窒素が圧倒的割合を占めています。
生命にとって窒素は細胞構築に欠かせない成分ですが、ここでは心にも作用する酸素の働きについて詳しくみていきたいと思います。
酸素の役割
呼吸によって人体に運び込まれた酸素は血液によって全身を巡る事になります。そして臓器や神経・筋肉などあらゆる器官を正常に機能させるためのエネルギーを生み出すために使われています。
体内では食事などで取り込まれた栄養素を酸素が分解します。その酸化時に生まれるエネルギーがヒトが生きていく為の力であり、それは成長・老いへと繋がっていく過程でもあります。
不老になる為には酸素を取り込まなければいいのですが、そうするとたちまち脳は働きをとめ、生命活動をやめてしまいます。
身体の中で一番酸素を消費する比率が高いのは肝臓で40%、その次が脳で20%と言われていますが、肝臓は1000gから1400gの重さの消費量に対し、その半分にも満たない重さの脳は実質最も酸素を必要とする器官とも言えます。
脳で酸素は全身への指令を司る神経の動力源となり、それは肉体以外にヒトの精神にも大きく影響を及ぼし、吸う息で交感神経、吐く息で副交感神経を刺激し、この流れが整うことで精神状態の安定を図ることが出来るとされています。脳への酸素量が低下すると頭痛や倦怠感等を覚える様になり、その状態が継続すると集中力や記憶力の低下を引き起こしてしまいます。
マスク生活のリスク
現在コロナウイルス感染予防の為、マスク生活を余儀なくされています。気温も大分上がってきていることから熱中症の危険も示唆される中、呼吸のしづらさ、息苦しさから酸欠になっている人も少なくありません。
酸欠になると脳に酸素が十分に行き渡らず、上記に合ったように自律神経の乱れを引き起こしてしまい、頭痛や吐き気などの肉体的不快感といった症状が現れます。
精神が不安定になると肉体へ警告するように痛みが現れ、その痛みへの不安から精神が病んでしまうという負の循環が続いてしまいます。
感染症の予防のためにはマスクを外しての生活は難しいですが、酸欠の症状が出ている場合はマスクを外し、ゆっくりと呼吸をして体の酸素を循環させ、脳へしっかりと酸素を送ってあげることを意識しましょう。
自律神経を整える呼吸法
意識をしなくてもヒトは常に呼吸を行い生命活動を維持し続けますが、体調や環境などあらゆる影響を受ける事で呼吸が浅くなったり、早くなったり変化し、そのたび呼吸が与える身体への負担も変化し続けます。
それは良い呼吸を行えば身体への良い影響も多いと言う事です。呼吸とは無意識に行うものなので常時良い呼吸をし続けることは困難ですが、ストレスを感じている時や緊張している時などに気持ちを落ち着ける呼吸法を身につけておくことで、精神にかかる負担を軽減することが出来るようになります。
ポイントは腹式呼吸
深呼吸の仕方でよく耳にするのは腹式呼吸です。
横になった状態、あるいはまっすぐ立位・座位をとっている状態でお腹に手を当てます。
5秒ほどの時間をかけ、口からお腹の空気を抜いていくイメージで息を吐きだします。
そして3秒ほど使って鼻からゆっくりとお腹を膨らませる様に息を吸っていきます。
これを4~5回ほど繰り返していくことで全身の空気の入れ替えが出来ます。
他に自律神経を整える呼吸法でヨガの呼吸法と言われる片鼻呼吸というものがあります。
普段鼻で呼吸をしている時、両方の鼻で均一に息をしているわけではありません。無意識に鼻は左右交互に呼吸をしているとされていて、だいたい2~3時間ほどで入れ替わるそうです。
片鼻呼吸法、ヨガの名前ではナディショーダナと言いますが、出来るだけリラックスした状態で片鼻を抑えもう片方の鼻からゆっくりと息を吸い込んでいきます。
そして抑えている鼻を左右交代させ、吸った息を反対の鼻からゆっくりと吐き出していきます。
時間は1分ほどで大丈夫ですが、気をつけたいのは必ず終わる時は左右の呼吸回数が同じになるようにしてください。初めに左鼻から吸ったなら終わる時は右の鼻で息を吸って、左から吐くようにすると言う感じです。
ヨガの世界では右の鼻は交感神経に、左の鼻は副交感神経に影響を与えているとされていて、このバランスを整えることで精神の安定を促していく呼吸法です。
終わりに
ここまで呼吸の大切さと役割のお話をしていきましたが、無意識でもヒトはきちんと呼吸を続けていけます。
神経質になりがちな昨今、日々の呼吸にまで神経をすり減らしてしまうと本末転倒になってしまうので、息抜きをしたいと思った時や気持ちが落ち込んでしまっている時にこの呼吸法を思い出して少しでもお役に立てれば幸いです。